第8回 「臭いが分かる様になった!」

年に数回、治療をしていて起きる事ですが本当に心から震えの来るような劇的な体験をさせて頂くことがあります。今回お話しさせて頂きます、症例もその中の一つでした。

3年ほど前に、当院の患者さんの紹介でいらして頂きずっとお会いしていなかったKさんと言う、60代の女性の方です。ご本人も、当院の連絡先を忘れてしまい、以前紹介頂いた方をなんとか探し出して、ご連絡頂きいらして頂いた次第です。お話を聞いてみて、この3年間の間に起きたことに、ビックリさせられることばかりでした。最初は、貧血で家で倒れたのがきっかけになり、めまいが酷くなりめまいの治療をしていたところ、引っ越しが重なり疲労からか風邪をひき近所の内科で頂いた風邪薬を飲んで以来、鼻が全く臭わなくなってしまったとのこと。体もやたら冷えるようになり、寝ていても目が回っている様な状態が続き、朝起きる時が怖くて仕方ないとおっしゃっていました。

体が強ばってしまい、周囲から血行が悪いからだと言われて、毎朝ラジオ体操をやり近くのスポーツジムでヨガの教室に入りやりだしたは良いが、やればやるほど首が痛くなり、めまいが治るどころが益々悪化するばかり。このまま体が動かなくなり、老婆になり朽ち果てていくのか?と精神的にも不安定な状態になり始めているとのことでした。お仕事が、学校給食を作る重労働をなさっていて、以前いらした時は腰が痛くて仕方ないと嘆いていらした経緯があるのです。

本日も、目が霞むような状態の中やっとのことで大塚までたどりついて頂いたしだいです。お話を伺っていて、「これは、明かな全身虚血状態であり、血が回っていないな。」と感じました。その原因はと言えば、お話下さった症状から判断出来ることは、関節レベルの異常による血行不良が凄く大きく関与しているのではと感じたのです。この3年間、ありとあらゆる検査もし、鼻の中にMRIの針まで入れられて検査されて、都内の数々の有名大学病院にも通い、出てきた結果が「原因不明」。あるところでは、「肩こりが原因だから、肩の筋肉の手術をしましょう。」と言われ逃げ帰ることもあったそうです。尋常ではない話しです。

とりあえず、通常通りの治療を開始しました。腰は、暫くお会いしていなかったのでかなり悪くなっている状態です。そして、肩、首を触ってみますとコチンコチンと言う表現がピッタリと言うような状態でした。明らかに、関節の動きが制限されてしまって動きを失ってしまっているような状態だと言うことが良くわかりました。
そこで、仙腸関節から丁寧に関節の治療を施し、肩、首も慎重に時間を掛けて治療させていただきました。「さあ~、久しぶりの治療ですが、Kさん。いかがですか?」とお尋ねしますと、「あら、先生。時計の針がはっきり見えます。めまいもしなくなりました。凄いわ~~。」とおっしゃるので、「ひょっとすると、臭いも少し分かるようになったかもしれませんよね。ちょっと試してみますか?」と言って、香水を持ってきて私の手につけ臭いを嗅いで頂きました。「あ~~臭い!!分かります。臭いが分かります。3年ぶりですよ、臭いをかいだのは。どんなに検査して薬を貰って飲んでも治らなかったのに。うれしい~~~~。嘘みたい!!」と言って涙ぐんでいらっしゃいます。

「やっとの思いで連絡先を探し出していただき、今日いらして頂けて本当に良かったと思います。今の医学がいかに関節レベルの異常が内科に与える影響が大きいのかと言うことを、最初から完全に無視していると言う事を実感としてご理解頂けたんですからね。3年間に渡って患者さんを不安なまま、放置し検査漬けにしたあげくの果て『問題ありません。』では、たまりませんよね。現に患者さんがおかしいと感じて居るんですから、何か他に原因がないだろうかとそこから先を何故考えないのか、通常の医学の範疇を超えてでも何かないかと探すのが医療に従事する者の本来あるべき姿だと思うのですが。病名をつけることにやっきになり、検査検査。なんとか病名を付けて始めて型どおりの治療を開始。では対応しきれない患者さんが現実には山のようにいると言うことが分っていながら出来ないと言う現実は、どうしたものかと思いますよね。」と申し上げました。

「先生、分かりますよ。おっしゃること。検査検査で散々振り回されたあげくに、最後には『原因不明です。』ではたまったもんじゃないです。こんなことだったら、最初からこちらに伺っておけば良かったです。無駄に過ごした3年間が、本当に悔しです。」と歯がみしておられました。こうしたケースは、年に何回かあるのですが現代医学が、関節が関節内で動きをとめてしまい、周囲の血管や神経の組織を物理的に伸ばしたり、押さえつけたりしてしまうことが、いかに内科に大きな影響を与えてしまうのかと言うことを考えもしない、思いつきもしない、ありえないとさえ思っている。そして、それに気づいている医師や医療関係者が居ても耳も貸さない、変人扱いして終わりと言う、愚かしさが招いている悲劇の一つだと思うのです。

私の立場では、内科に関する事を声高に申し上げることは出来ないのですが、関節の異常が内科の問題に大きく関係しているケースがあると言うことを、一人でも多くの方に知っていただければ、ひょっとすると何かの機会にお力になれるケースもあるかもしれないと思うのです。
今回のような事は、度々あることでは無いのですが医療と言うものを、別の視点から眺めてみますとまた新たな世界が見えてくるのでは無いかと思えてならないのです。