寝具,AKA,仙腸関節

近年、寝具のあり方について寝具メーカーも色々と智恵を絞り様々な商品を送り出してきています。顧客に合わせた枕作りなどは当たり前のように行われているようです。また、ベッドの固さも背骨に合わせた測定器の上に寝てそのデータに基き適切な固さのベッドを紹介するというようなサービスも出て来ているようです。

そして時として驚かされるのが、枕の宣伝で「枕が合わないと頚椎がズレて神経を圧迫しそれによって肩こりが起きるんです。」と言ったようなにわかには信じられないような宣伝文句を目にする事があるのです。まるで人間の体が豆腐ででも出来ているかのような書き方です。宣伝文句にあるようなそんな柔な体ならば、江戸時代まで箱枕を使って不自然な姿勢で毎晩寝ていた我々日本人は皆頚椎がズレて酷い肩こりでずっと悩んできた事になってしまうではありませんか。悪い冗談として見過ごすにはあまりにも常軌を逸した話です。

私は、治療する立場からそういった現象を見ていて、いたずらに消費者の恐怖心を煽るような商業主義的な商品の売り方に対して強い憤りを禁じえないのです。
物事には何でも順序というものがあると思うのです。

治療をしている立場から考える理想的な順序を申しますと、

1. 仙腸関節の正確な治療をまず受診する事。
2. 体がその方にあった正しい関節の位置を覚え安定するまで待つ。
(必要とあれば、微調整のための治療を継続する。)
3. 安定したところで、寝具選びに入る。

(ただし、体圧を分散出来るような優れた機能性を持った寝具であれば治療の前から使用していただいても一向に構わないと思います。)

という手順が一番ベストだと私は考えています。
まず、体の状態をその方の一番ベストな方向に持っていく事が先であって道具はそのベストな体の状態をなるべく崩さないようにする為の機能を備えた物でなくては意味がないと思うのです。良く言われる事ですが、最高に理想的な寝具は、水の上に浮いた状態で寝る事だと言われます。確かに体圧を完璧に分散出来る理想的な寝具かもしれませんが、そのような大掛かりな装置は何十万円もしてしまう代物ですから一般の方達の手が出る代物ではありません。買ったとしても置く場所が無いという話も出てきてしまいますし、あまり現実的な話ではありませんね。

そこでいよいよ具体的な寝具選びとなる訳ですが、まず寝具を選ぶ時はマットレスを先に選ぶべきだと思います。体全体を無理なく支え、寝ている間に体を壊さない事を目的としたマットレスを選択する事が一番重要になってきます。
そして、次に枕を選ぶというのが正しい選択方法だと思います。

 

当院にいらしている患者さんからこんなお話を聞いた事があります。
今使用している枕がどうも合わないと思っていたので、デパートの寝具売り場で自分に合わせた枕を買おうと思い立ち出かけられたんだそうです。2時間もかけてああでもないこうでもないと売り場の方と相談してやっとこれがベストと思うものを手に入れて帰られたそうです。そして、実際にその枕を使用して一晩寝たところ朝起きたら頚から肩までパンパンの状態になってしまって以前使っていた枕よりも体の状態が酷い状態になってしまったとのことなのです。「2時間かけて、20000円もかけてこれではたまったもんじゃありませんよ。もう~」と怒っていらっしゃいました。自宅で使っているマットレスとデパートの売り場のマットレスとは当然違うわけですからデパートで合わせてベストでも自宅で使ってベストかどうかはやはり別問題だと思うのです。その上、元々が腰の悪い方でしたので体の方もベストとは程遠い状態にあるわけですから悪い条件があまりにも揃い過ぎていた悲劇と考えられるのです。

「マットレス選び」

 

では、最初にマットレスについてお話をしたいと思います。
枕よりも重要な要素を占めるマットレスですが、時としていくら治療を重ねても腰痛の改善が見られない患者さんがいらっしゃいます。直ぐに戻ってしまうんですね。
ある時ふと気づきまして患者さんに「自宅ではどんなベッドやマットレスに寝てらっしゃいますか?」とお聞きした事がございます。そうしましたら、「腰痛には、固い寝具が良いと言われてフローリングの上に布団を一枚敷いて寝て居ます。」とおっしゃるではありませんか。そして困った顔で「朝、布団から起き上がる時腰が痛くて凄くつらいんですよ。」とおっしゃるのです。「朝起きた時にそんなにつらいのに、どうしてそんな固い所に寝ていらっしゃるんですか。」とお聞きしますと「だって、先生腰痛の人は固いところに寝たほうが良いって昔から言うじゃありませんか。」とおっしゃるのです。思わず私は言葉を失ってしまいました。自分の体が異常を訴えて悲鳴を上げているのにもかかわらず、それを無視してまで、思い込みや迷信に従っている姿を見て何とも言え無い気分になってしまったのです。

これでは、いくら治療しても効果が持続しないわけなのです。「寝ている間に腰をどんどん壊してしまっている」ことに御本人が全く気づいていらっしゃらないのです。人の体は、若い正常な背骨の形を保っているうちは横から見ますと首から緩やかなS字を描いているのが普通です。にもかかわらず、そう言った正常な背骨の生理曲線を持った方が平らな固い所に寝れば当然ながら腰に大変な負担がかかってきます。ちょうど、お腹のあたりが上に盛り上がる形になり背中側に大きな隙間が出来てしまうのです。(固い床に仰向けになっていただいて御自信で確認して頂ければ直ぐに分かることです。)お腹には内臓や筋肉、脂肪がついていますから重力の関係上当然下に圧力をかけることになります。それを受け止める場所が実はもろに「仙腸関節」付近になってしまうのです。毎晩そのような過酷な状態で寝ていれば、仙腸関節が狂いやすくなるのは言うまでもありません。よって、いくら治療しても効果が持続しないことになります。まさに、「寝ている間に腰を壊している」結果となってしまうのです。腰や体の為に大変悪い環境で毎晩寝ている生活を送った上で治療にいらして「先生の所に通っていてもなかなか腰痛が良くなりません。」などと言われた日には私も立つ瀬が無くなってしまうのです。(笑)

今でも、健康雑誌やマスコミなどで「腰痛の人は固い所に寝たほうが良い」と頑なにおっしゃっている方を見ますと60代以降の高齢者の方に多いように思います。それは、加齢により背骨の生理曲線がだんだん無くなり真っ直ぐに近い形になってしまう関係上、固い平らな所に寝た方が仙腸関節にとってストレスのかかりにくい楽な姿勢になるからだと推察出来るのです。まだ、背骨の生理曲線が健在な若い健康な方達にまでつかまえて、「腰痛の人は固いところに寝たほうが良い。」などと通り一遍なアドバイスする事自体とんでもない大きなお世話であると言わざるおえないのです。

では、具体的な商品選びにつきましては何が良いのだろうかという事になりますが、私自身も既に4年近く使用しておりますマットレスが実は一番お薦めなのです。
「体圧分散型のマットレス」と言われるものです。昨年あたりから、TVショッピングでも良く見られるようになったのですがやっと時代が追いついて来たのかなという感じがいたします。患者さんから尋ねられると、私がお薦めしているのが自分でも使ってその効果を実感しているマットレスです。デンマーク製の医療用に開発された特殊な物です。しかし、値段は体圧分散を売りにしている国産の商品に比べましても約半額位で手に入りますし、布団から出るダストによるアレルギー対策も施された大変機能的にも優れたものなのです。メーカーに頼めば丸洗いもしてくれます。ウオーターベッドの感覚をポリエステルの綿で再現したという物で始めて寝た時の驚きと感動は今でも忘れられません。体が中に浮いているような浮遊感に襲われるのです。

医療用に開発されたというところが味噌でして、デンマークでは病院で使用される介護用のマットレスとしては殆ど100%のシェアーを占めていると聞いております。床ずれ対策として最高のマットレスとして重宝がられているようですね。(日本の病院も、何億もするような高額な検査機器にばかりお金を使うのではなく入院されている患者さんの入院生活で直ぐに役に立ち喜ばれる物にお金を掛けるようもっと神経を使う配慮が欲しいものだと思えてなりません。是非、デンマークの病院の有り方を参考にしてもらいたいものですね。)ですから、健康な方が腰痛予防の為に使用されれば悪いはずがありません。お薦めして、お使いになられた患者さんは皆さん「凄く良いです。これは手放せませんね。」とおっしゃいますし御高齢のご両親にプレゼントされた方も何人もいらっしゃいます。プレゼントされたご両親も「何を貰うよりも、嬉しかったよ。」と喜んで下さっているようですので、お薦めした甲斐があったなといつも嬉しく思っているところです。来院された患者さんから御質問があれば、ネット上で購入出来るサイトをその場でお教えしております。

「枕選び」

 

さて、次にの話をしたいと思います。
マットレスの良い物を購入したらそれに合わせる形で選ぶのがベストだと思います。
実際に使うマットレスと組み合わせて寝て感触を実際に確かめてみるのが一番間違いないでしょうね。マットレスと同様やはり、医療用に開発された物に良い物が多いように思います。私は、自宅では上記のマットレスとイタリア製の医療用の枕を合わせて使用しております。近年では「低反発性ウレタンの枕」という優れ物が登場してきております。低反発性の特殊なウレタンが開発された事から枕に応用されたようです。

かつては、テンピュールが良いと言われ私も当初検討していたのですが、実際にテンピュールの枕を使用している患者さんから「テンピュールは、高価な上に気温が下がり寒くなると固くなって凄く使いにくい。」と言うお話を何人もの方から伺っていましたので、実際の購入を躊躇していたのです。そうこうしているうちに、ちょうど出始めたばかりの「低反発性ウレタンの枕」の存在知り早速購入してみたのです。治療の際にも実験的に使用するようにしてみました。そうしましたところ適度に頭が沈んで、首の周囲にも負担がかからずとても使い心地が良いと訪れる患者さん達にも大変好評だったのです。もちろん、テンピュールのように部屋の温度に固さが左右されることもありません。また、形状がいかようにでも変化しますので、使う人を選ばない良さがあると思うのです。生卵をぶつけても割れないという位の衝撃吸収性を持ち合わせていますので頭と頚に優しい枕とも言えるのかもしれません。こちらの枕も先程御紹介したマットレスと同様、ネット上のサイトで私が見つけたものでして、御質問があればいつでもその場で購入出来るサイトをお教えしております。お値段もテンピュール枕の4分の1程でたった3000円で買えるのです。

余談になりますが、私が使用しております枕を売っているサイトは枕専門のサイトでして様々な用途に応じた枕を扱って居ます。実は、治療用にもう一つ別の種類の枕を使うことがあるのです。「ブーメラン枕」と言われるものでまさにブーメランのようなU字型をした大きな枕です。患者さんの中には、平らなベッドに暫く仰向けになって電気をおかけする時間がつらくて駄目という方もいらっしゃいます。そんな方には、このブーメラン枕を使って体を少し起こすような姿勢で寝ていただきます。
上体が少し上がった形になりますし二股に分かれた部分がちょうど両腕が乗せられてリクライニングシートにもたれかかっているような状態になるのです。すると、ちょうど仙腸関節が良い具合に緩んで腰の痛みが軽減出来るような体勢に出来るのです。そうした状態であれば、電気をおかけする暫くの間位でしたら我慢していただくことも可能となるのです。また、一方で横にしかなれない方の場合も、抱き枕のように使えますし実に重宝しているのです。この枕も5000円で購入出来ますので患者さんの中にはすっかり気に入ってしまって「私も是非買います。」とおっしゃる方がよくいらっしゃるのです。

良く言われる事ですが、人間は一生の3分の1は寝ているわけですから寝具はあだやおろそかにするわけにはいかないのです。ましてや、寝ている間に腰を壊していたなどという状態が放置されているならこれは大問題です。しかし、以外と無頓着に寝具を使っている方が多いのも事実のようです。腰を痛めてから、急に今まで使っていた枕やマットレスに違和感を覚えるようになりだしたとおっしゃる方も少なく無いのです。慢性化した腰痛や肩こりでお悩みの方はJMIの治療と合わせて、是非一度寝具の重要性をお考えになっていただけたらと思うのです。